桒原駿の備忘録

囲碁棋士桒原駿のブログです。

面白い棋譜探しの旅 part3 井山裕太ー童夢成

今回は4月14日に打たれた野狐人気争覇戦決勝三番勝負の第二局を紹介していこうと思います。この棋戦はネット碁サイト野狐囲碁で開催されているトーナメント方式の世界戦で、井山裕太九段が並み居る強敵を倒して決勝に進んでいて第一局も制しているのでこれを勝てば優勝という状況です。相手は童夢成八段。井山九段の黒番です。

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このような立ち上がり。タスキでどちらも左上を向いての小目というのは珍しい気がします。

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3は最強手で井山九段は得意の戦いの展開に持ち込もうという意図です。3では一路右の方が普通に感じますが、

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(4は3の下)

右辺のヒラキが狭く固い時は2、4のツケ切りが有力で(すぐに打つかは分かりませんが)図のように一気に凝り形になってしまう可能性があります。この図に比べると実戦の方が黒の攻めが利きそうで戦いやすく見えます。工夫の一着ですね。

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実戦。1~7と周到に準備をして9と飛び出しました。本来ならここまで固く打つ所ではなさそうですがこれは童八段が井山九段の戦闘力の高さを警戒している証拠で、見どころの一つです。国のトップ同士でよく対局がある柯潔九段もインタビューで井山九段と打つ時は戦いを避けるようにしていると答えていたのを見た記憶があります。

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(8は14)

中央右の白は一目を手堅く取って一段落。右辺の黒が固まったので6から先ほど言ったツケ切りを決行しました。黒も利かされるのは嫌なのでコウ争いに持ち込みました。

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(3、6、9はコウ取り)
コウは白が解消。代わりに黒は右下を荒らして生きました。

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5のノゾキに6と反発してきたのに対して二目を捨て石にして外を固めたのが非常に柔軟な打ちまわしでした。こうなっては下辺の間隔が良く左下の二間シマリが最大限に活きているので黒が相当良さそうです。

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白は下辺の黒地を制限しようとしますが、15に対して黒は右の6目を捨てて左辺を連打しました。これも柔軟な着想で下辺に大きな黒地を築き優勢を確立しました。AIの評価値で言うと90%くらいです。

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白は右辺を取り切り黒は上辺を広げていきます。不確定要素の大きい中央が勝負の分かれ目になりそうです。

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1では2のアテを打つべきだったと思います。上辺は固めましたが気づいたら下辺が封鎖されていて次にブツカリから二目取りまで見えているので白が押し気味になってきています。

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ジリジリと寄せられ13がおそらく決定的な失着。一路下の曲がりなら何もありませんでしたがこのツナガリ方では18の抜きが先手になってしまいました。まだ半目勝負ですが少し白が厚くなったように思えます。

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お互いミスなくヨセて右辺のコウ争いに。

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(3、6、9、12、15、18はコウ取り)
最後は白半目勝ちでした。白の粘りがあり惜しい逆転負けでしたが所々に黒の工夫が見られた非常に面白い碁で私もとても勉強になりました。
勝った方が優勝となる第三局は明日22日の14時半開始だそうなのでお時間ある方は野狐囲碁で観戦して一緒に応援しましょう!最後に総譜を載せますがコウ争いが多いので分譜の方が並べやすいかもしれません。ではまたお会いしましょう。

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