桒原駿の備忘録

囲碁棋士桒原駿のブログです。

面白い棋譜探しの旅 part8 楊鼎新ー許嘉陽

皆さん明けましておめでとうございます&お久しぶりです。以前ツイッターでも述べた通り権利関係の味が悪いということで今日の手合シリーズは一時休止ということでこのコーナーを中心にまた記事を上げていこうと思います。よろしくお願いいたします。

今回はちょうど昨日行われていた衢州・爛柯杯中国囲碁冠軍戦という中国の棋戦の決勝、楊鼎新九段対許嘉陽八段の碁を紹介していきたいと思います。楊鼎新九段は世界ランキングトップ5常連、許嘉陽八段もトップ20には入るだろうという強豪同士の対決です。個人的には許嘉陽八段が結構好きなのでちょっぴり応援していました。

では内容へ。楊鼎新九段の黒番です。

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このような立ち上がり。今打った22のハサミが配石を見て少し工夫した一手です。

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定石通りに打つならこうですがこの場合は2がヒラキと同時に左上の白の薄みを狙う一石二鳥の手になってしまっているので実戦はこれを避けた形です。

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ここが本局の面白ポイントです。一手一手がよく練られた手なので見ていきましょう。

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まず1では単純に打つとこのような感じでしょうか。7まで一見厚く打ったようですが8ぐらいに守られて、白に弱い石は無く左下と右下の黒の距離感も広すぎでさらに下辺の裾が開いているという攻めることも地を作ることもできない無駄な厚みとなってしまっています。

なので実戦は露骨に打たず下辺から左下の白にプレッシャーをかけるような打ち方を選びました。

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ここではパッと見1から分断していくのが強手に見えますが12に対する受け方が難しく、攻めるにしてもここをケアしつつの打ち方になるので厳しい攻めは見込め無さそうです。

実戦の白の手は苦しい受けに見えますが実は一番の強手なのではないかと思います。なぜかというと

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ここで1と受ければ今度こそはと2から分断していく狙いがあるからです。先ほどとは違って隅の白はなんの心配もないので心おきなく戦うことができます。

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またここで1と上から受けると先ほど黒が避けたのと似たような図になってしまいます。つまりこの白の手に対して直接受ける手を黒は持ち合わせていないのです。

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そこで黒が選んだのがこの手です。先ほどの二手を利かしと見て軽く打つことで下辺を黒っぽくしました。炙るようなツメからモッチリとした受けにふんわりとしたトビ。焼きマシュマロのような応酬でしたね。(?)

これ以上手を進めると長くなりすぎるのでここまでということで、この後は地で先行した白を黒が攻め立てて形勢が二転三転する決勝に相応しいとても見応えがある碁なので是非探して並べてみてください。

 

コロナ禍で世の中も囲碁界も色々大変ではありますが自分もブログを始めできることから一歩一歩やっていこうと思います。ではまたお会いしましょう。