面白い棋譜探しの旅 part11 辜梓豪ー楊鼎新
また面白いと感じた棋譜を紹介していきたいと思います。4月16日に打たれた中国天元戦挑戦手合三番勝負の第三局、つまりこれを勝った方が天元位を獲得するという対局で辜梓豪九段と楊鼎新九段という組み合わせです。
先にどこが面白いかを言っておくと、中国の碁は研究された序盤から足早な展開というのが多いのですが、この碁は大一番だからかお互いが重厚かつ慎重な打ち回しでどちらかというと日本的な内容であるという点です。並べていてなんとなく新鮮な印象を受けたので書きたいと思いました。
では碁の内容へ。楊九段の黒番です。
このような立ち上がり。15の打ち込みから競り合いが始まりそうです。自分なら右下をカカリそうなので結構早く入るんだなあと思いました。
4に手抜いて5とソったのが印象深い手でした。というのはこれは黒に5の地点に打たれてデギられるのを警戒した手だと思いますが
部分的には1に対して下にノビずに2と戻っている形なのでスピード言えば大分遅くあまり推奨はできない手だからです。慎重に打とうという意思が見てとれますね。
ここもお互いすごい手堅さです。まず3ですがこれは地としては大きくなく左上との連絡を主とした手ですが左上の白はまだそこまで危なくないので普通は時期尚早と思われます。
そして対する黒の4と10にまた驚きました。左上の黒は完全に生きているので強い石から動くなという言葉の真逆を行っています。その間に白が打った5と11がかなり大きいのでさすがに黒は重厚過ぎたのではないかと感じました。
1のカタツキから3、5のヒラキに持っていったり7のハサミに対して8、10と確実に脱出するあたり最早今の日本の碁を通り越して江戸時代の雰囲気すら感じます。
1は一路左かと思いましたがさらに手堅く行きました。
手堅く打ちつつ9と切断に成功したのでここから戦いが起きそうと思っていたところ…
簡単に二子を捨ててしまいました。驚きです。10と打たれて右辺をまとめるのは難しそうなので形勢は白が良さそうです。
4のカタツキは頑張った手で5のハザマから戦いになるかと思いましたが6,8、10と華麗にツナガリました。ここは厚いだけでなく柔軟な手堅さですね。
ここはこの碁で一番読みが必要だった局面だと思いますが白が捨て石を使いつつ上手く荒らしてツナガった感じです。
白は形勢が良さそうなので4、6と左上を、12、14と右辺をしっかりツナガり不安要素を取り除きました。
12(20)15(20の右)
30までで白の中押し勝ちとなりました。
序盤から手堅さのぶつかり合いという面白い展開でしたがその中で柔軟さを見せた白に軍配が上がった気がします。
しかし下辺の二子を捨てたあたりもそうですが黒は劣勢の中でも最初の方向性を貫き通したようなところがあり、負けた側の努力もあって完成された美しい碁であると思い感動しました。いつかこんな碁が打てたらと思います。
では今回はこの辺で。また次回お会いしましょう。