桒原駿の備忘録

囲碁棋士桒原駿のブログです。

面白い棋譜探しの旅 part4 連笑ー張涛

今回は4月16日に中国で打たれた団体対抗戦第6節から連笑九段と張涛七段の碁を紹介していこうと思います。あまり聞いたことのない棋戦ですが、新型コロナの影響で対面対局ができなくなったため中国ではネット棋戦が増えていてこれもその一つだと思います。

この碁は今年自分が並べた中でも1、2を争うくらいの名局と感じていて、特にヨセの見ごたえがあるので少し長いですが一緒に並べてみてください。連笑九段の黒番です。

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このような立ち上がり。1、3、5の両小目から小ゲイマシマリは一時期減りましたが最近また打たれるようになりましたね。

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左下は珍しいですがたまに見かける変化。白としては下辺に模様を張る展開を嫌った時にこう打つことがあります。この場合は右下に黒が構えているのでその条件に当てはまりますね。

18は重要な模様の争点。少しハイレベルですがこういう手をしっかり打つことが高段者への第一歩です。

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4と白を封鎖しようとしたのに対し5と反発。黒は二目を捨てて外側をとりました。白の反発は予想していたはずなので捨てるまで予定の行動だと思います。柔軟な発想で面白いですね。

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ちなみにうっかり1と抑えるとワリコミから一瞬で破壊されてしまいます。

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(4は11、10は5の左)

14のサガリが大きくここは白がポイントを上げました。下辺の黒の厚みや3のツメの圧力を減らすことに成功したので白が優勢です。

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黒が右上の模様を広げたのに対し4の消しが絶妙。これは消すだけでなく右辺の黒2子と上辺の黒1子のどちらかを切り離してやろうという攻めの狙いも持っています。実戦は上辺の方を分断して黒の不安要素を作ることに成功しました。

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もし前図5で上辺を受けていればこのように右辺を分断する進行が予想されます。

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黒は劣勢の状況で攻められていてはどうしようもないので攻めに転じます。多少強引でしたが9から白3目を切断してポイントを上げました。こういう所の駆け引きはとても勉強になります。形勢も互角くらいになったと思います。

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白は上辺を生きて再びリードを取り返しました。黒は11が失着で一路右のグズミならばここまでの生きは許していなかったと思います。こういう生き、気持ちいいですよね(自分だけ?)

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黒は上辺を生きられた代わりに1から右辺を突き破りました。そろそろ大ヨセかという所でコウが始まります。

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2は取ったり潰したりするのを狙うものではなく得をするコウ材なので平たく言えば譲歩したような感じです。大ヨセに入りますが実はこの碁はここからが本番。細かい、少し白優勢という拮抗した場面から総手数の半分近くをヨセていきます。

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気づきにくいですが下辺の大きな黒一団はまだ完全に二眼は無く、黒は眼形を作りつつ損しないように、白は眼形を減らしつつよりついて得をしようという攻防が繰り広げられています。

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(7は8の右)

11がほんの少し損な手で敗着だったと思います。ここに下がって一手かけるより単にツナイで先手を取った方が良さそうでした。

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21から最後のコウが。ここで勝負が決まります。

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(1、4、7はコウ取り)

左上は全てセキ。22では

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このように3目を取る手もありましたがこれだと黒負けでした。

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最後までヨセきって黒の1目半勝ちでした。

序盤は柔軟、中盤は相手の隙を突き合い、終盤は至高のヨセと言っていい黒の鮮やかな逆転劇。これぞトップ棋士という一局で非常に感動しました。この感動が伝わってくれていると嬉しいです。ではまたお会いしましょう。