桒原駿の備忘録

囲碁棋士桒原駿のブログです。

面白い棋譜探しの旅 part5 楊楷文ー陳玉依

今回は4月24日に中国で打たれた大循杯第10節から楊楷文七段と陳玉依五段の碁を紹介していこうと思います。

どっちも知らんわ!って方もいるかもしれませんが、実は楊七段は私が最近プチハマり中の棋士です。手厚くしてじわじわパンチを狙う棋風で、すごく若いというわけではありませんが力を伸ばしていて昨年はCCTV杯で柯潔九段を破るなど有名所にも勝ったりしています。ちなみに陳五段については自分もよく知りませんが最近ちょくちょく名前を見かけるようになったので新進気鋭の若手という感じでしょう。

では棋譜を見ていきましょう。陳五段の黒番です。

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このような立ち上がり。部分部分はよくある形ですがこの組み合わせは少しレアな気がします。

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黒は右上、白は左辺を勢力圏にしようとしています。8の打ち込みに対して9は石が張った最強の応手。打ち込んできた石を攻めつつ右辺の白にも傷をつけようという手です。それに対して白は隅をコウに。これもまた最強の抵抗で早くも一つ目の山場です。

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黒がコウを解消し左下とのフリカワリになりました。元々右上は黒の勢力圏内だったので少し白が得したように見えます。12は消しですがただの消しではなく黒がAと受けたら次にBとカケて逆に左辺を広げようという狙いを持っています。このあたりは一手で全く景色が変わるので難しい所でもあり面白い所でもありますね。

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6以降お互い全て最強手です。先ほどのフリカワリで得しているので普通に打ってても白は悪くなさそうだったのですが、あれよあれよと三目を取る代わりになんと右辺を全部捨ててしまいました。

えっさすがに大きくない!?と思いますよね。私もそう思いました。そして実際にこの一連で得したのは黒です。しかし白からすると一本道なので予想通りの展開なのだと思います。果たしてどういう構想なのか、次で分かります。

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全ての狙いはこの3に凝縮されています。普通ならこの場面では一路左の星の位置に打ちたい所です。なぜなら4と打ち込まれるのが目に見えているから。ではなぜ一路広くハサんだのか。それはこの打ち込みを誘って丸ごと攻めてやろうという狙いだったからです。そしてこの石を攻めてどうするつもりなのか。それは次で分かります。

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12~16で分かるように下辺を攻めつつ左辺をまとめようという狙いです。黒はもう一手かければ下辺は安定しそうですが、いくら右辺の黒地が大きいと言っても左辺を全部白地にされると良い気はしない。そこで17と打ち込んでいきました。勢力圏内で二つ不安定な石が相手にある時何を狙うか。それはお分かりの方も多いと思います。

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白のお手本のような絡み攻めが決まり29までで左辺と下辺両方を助けることは絶望的となりここで黒が投了、白中押し勝ちになりました。

おそらく左辺を動き出さず良い塩梅に捨てていれば黒悪くなかったと思いますが真っ向からのシノギ勝負を選びましたね。損得や勝ち負けにこだわらずお互いに打ちたい手、構想を貫いた碁の醍醐味と言えるような一局だったと思います。

ではまたお会いしましょう。