桒原駿の備忘録

囲碁棋士桒原駿のブログです。

面白い棋譜探しの旅 part2 申眞諝ー李東勲

今回は3月23日に打たれた韓国最高棋士決定戦第16局、申眞諝九段対李東勲九段の碁を紹介していこうと思います。面白いとは少し違うかもしれませんがちょうど前回の「今日の手合 20局目」で紹介した事とリンクする内容だったのでこの棋譜を選びました。そちらを先に読んでいただけていると理解が深まるかもしれません。あとは単純に申眞諝九段の碁が好きだからです、はい。

前置きはこの辺にして碁を見ていきましょう。申眞諝九段の黒番です。

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このような立ち上がり。碁盤の色がちょくちょく変わるのは使ってるサイトが違うからなのであまり気にしないでください(笑)ちなみに自戦解説がこげ茶、中国の碁が肌色っぽい茶色、韓国の碁が黄色っぽい茶色になる可能性が高いです。日本の碁と国際戦はまだ謎です。

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ワリ打ちから普通に開かず3とケイマするのが左下の形に対する常套手段と考えられています。3で

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1のように開くことも十分に考えられますが、同じような展開になった時4~8や10~12がほぼ利きみたいなものなので(もちろんすぐに打つかは分かりませんが)、この時1が白に迫っているよりケイマで実戦のように黒を補強してる方が良いと見られています。

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実戦。両ガカリに対してはどちらにツケるかいつも悩みますが、基本は固めたくない方や攻めたい方の反対側にツケます。この場合は左上から上辺が白っぽくなりそうなのでその反対側にツケました。5のキリはシチョウが良い時の場合の手ですが一目は抜けるのでまずまずの厚みです。左上の白の厚みを牽制した意味もあります。

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(7は6の右)

2ではカカリの選択肢もありましたがどちらから打ってもコスミツケて攻めを狙われることが予想されます。序盤早々以外の三々はコスミツケを嫌がっている時が多いです。

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実戦。前回記事とリンクしていると言ったのがここからです。露骨な囲いは良くないというのが定説だが相手の強い石が近くにあり侵入が厳しくなる時は立派な一手になりうるというやつですね。この場合の相手の強い石は右上隅の白一団です。相手の厳しい侵入というのは

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この1です。黒の勢力圏内なので4などと攻めるべきですが5を利かして7と居直っていればまず死ぬ心配はありません。加えて実は右上の黒一団が厚いようで生きていないというのが厳しいと言った要因です。白が荒らしに来たはずなのにいつの間にか黒が攻められているということもこの形では何度も見かけたことがあります。実戦も白は下辺を受けずこのように打つべきだったと思います。

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実戦。白は右辺がそのまま黒地になっては困るので1と入ってきました。相手がサバキに来た時の考え方という部分も前回の記事とリンクしています。まずどの程度譲歩できるか考えるでしたね。この場合は侵入は許すが、2~8と厚みを取りつつ地は14のラインまで得られればいいという判断でした。眼を与えずさらに外側を厚くしたことで左下の白へのプレッシャーにもなっています。

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白は脱出しましたが黒は13と下辺に、15と左下に厳しく迫ることができました。これは中央に厚みを築いた効果です。

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左下、下辺ともに確実に生きましたがどちらも窮屈。右中央の白も凝り形な上まだ一眼しかありません。

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黒は1から上手く荒らしました。やはり中央が厚い分外側の白を固めても大丈夫なので気楽に荒らせます。ここで白の確定地が20目強+左上の厚み、黒が45目強+中央の厚みなので黒は左上から上辺にかけての白を20目前後に抑えれば勝てそうです。中央の白がまだ生きてないので黒が大分良さそうですね。

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黒は1~5と攻めつつ上辺を荒らしました。そのまま攻め続けられては困るので白も右辺をコウにして目を作りつつ荒らそうとしています。

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(1は4の左)

黒は当初の目的は果たせたのでコウは妥協。スペースの広い中央でミスが出なければ黒が勝ちそうです。

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白が最後の勝負手を放ち少し難解になりましたが中央の白の死活と上手く絡めて38の右のキリと39の一目を引き出す手を見合いにして黒中押し勝ち。囲いに入らせて以降黒のお手本のような攻めが全局を支配した碁だったと思います。

最後に私事ですがブログが1周年になりました!いつも読んでくださってありがとうございます。新型コロナに対する非常事態宣言の影響で手合がしばらく中断になったので今日の手合シリーズは更新できませんがこのシリーズをボチボチ書いていこうと思います。また次の1年もよろしくお願いいたします。