桒原駿の備忘録

囲碁棋士桒原駿のブログです。

好きな作品 その2 「Another」

久々の好きな作品シリーズです。今回は紹介するのはこちら。

f:id:kuwabara_igo:20200530183800p:plain

「Another」。ミステリー作家として名高い綾辻行人さんの小説で、後にアニメ化、実写映画化もされています。僕はこの作品が大好きで初めて観た時に衝撃を受けたのですが、その1で紹介したヴァイオレット・エヴァ―ガーデンとは違って人に勧めたこともなければ好きだと公言したこともほぼありません。なぜかというとなかなかグロテスクだからです。なのでこれは僕の好きな作品というだけであってその手の耐性がある人にしかおすすめしないことをまず言っておきます。

・あらすじ

ある田舎の中学に転校してきた主人公。編入した三年三組にはどこか何かに怯えているようなクラスメイト達と自分だけに見えているかのような一人の女生徒が。違和感を覚える日常の中クラスメイトの一人が事故で凄惨な死を遂げる。しかしこれはただの事故ではなく26年前から三年三組でのみ起こる”現象”の始まりだった。この現象を止める方法、そしてこのクラスの秘密とは―

・この作品の魅力

まず本格ミステリーとして成立しているのに事件も起きなければ悪意すら介在しないという設定に感銘を受けました。そしてそれを成立させているのがホラー要素ということにも。僕はミステリー小説が好きで色々読んでいるつもりなのですが、こういう構図のものには初めて出会いました。大体これだとホラー小説よりになるイメージがありましたから。

次に秀逸な伏線。独特なセリフ回しで張られる部分もあり謎が解き明かされた時に爽快感だけではなくなんとも言えない喜びのようなものがありました。叙述トリックに関してはさすがに小説の方が鮮やかだと思いましたがそこは映像化の難易度が高いということでご愛嬌。

最後に世界観。これは特にアニメなのですが制作陣がとてつもなく豪華で背景の描写や色彩、目線や表情、音楽などどれをとってもすごく緻密に不気味に作られています。このあたりは何時間でも語れそうですがここでは自重しておきます(笑)

・最後に

アニメと小説は多少の登場人物設定や描写に差異があるもののどちらも素晴らしいと思うのでお好みで。ぶっちゃけ映画はあまりおすすめしません。

それと今偶然ちょうど良いタイミングでAbemaTVビデオで二週間限定一挙配信がやっているので耐性があって興味がある方は是非。

https://abema.tv/video/title/25-9axuadmcwhh

この後ガッツリネタバレで魅力をもう少し書くのですでに全部観た人と多分観ないであろう人以外は見ないことをおすすめします。ではまたお会いしましょう。

 

(注)ここからネタバレ

いくつか特に感銘を受けた部分を紹介、もとい語りたいと思います。

まず一つ目。Anotherというタイトルです。英語でもう一つの、別のというような意味ですが、序盤ではこれがクラスで「いないもの」とされた女生徒、見崎鳴のことだと思っていました。これが実はクラスに紛れ込んだ死者であったことが途中で明らかになり気づきます。タイトルによるミスリードだったと。

二つ目。男子生徒、望月優矢の「ムンクの絵もよく誤解されるけどね。あの絵の中で叫んでいるのはあの男の人じゃなくて、彼の回りの世界なの。」というセリフ。これはクラスの状況の本質をこれでもかというくらいに捉えている言葉で、読者、視聴者の視点を180度変えさせるこの作品で最も効果的なセリフだったと思います。

そして三つ目。本編のラスト前、退院した主人公榊原恒一と見崎鳴が歩いているシーン。恒一が「終わったんだよね…?」と言い鳴が意味深な笑みで返すだけですがここには大きな意図が隠されていると思いました。パッと見恒一が死者を倒した時に気胸が再発したが、重症には至らず退院できて現象も収束、二人は笑ってハッピーエンドという感じ。しかしそれでは鳴が何も言わず意味深な笑みを返した描写の理由が説明できないし、クラスメイトの勅使河原と望月が次に現象が起きた時のためにテープを残すという描写をラストに持ってきた意味もない。これらから恒一が実は死者を倒した時に死亡して死者となりそれに鳴も気づいていたのではないかと推測しました。いつ、どうやってかは分かりませんが次の現象は死者である恒一によって引き起こされるのではないかと。

これは僕自身の考察であり特に三つ目に関しては調べてもこれについて言っている人を見かけなかったので真偽は全く分かりませんが、この考察ができたからこそこの作品を名作と思えたのかもしれません。あれが明確にハッピーエンドだったら多分このブログは書いてなかったと思います。